映画『がっこうぐらし!』感想 ちゃんと誠実なゾンビもの
映画『がっこうぐらし!』
75点 / 100点(満点中)
ひとこと・・・多分、皆が思ってるよりずっと面白いはず
あらすじ:シャベルを愛する胡桃、ムードメーカーの由紀、みんなのリーダー的存在の悠里は、私立巡ヶ丘学院高等学校・学園生活部に所属する女子高生。学校で寝泊まりし、24時間共同生活を送る学園生活部で“がっこうぐらし”を満喫中だ。
みんなと一緒にご飯を食べて、みんなと一緒におしゃべりをして。屋上に作られた園芸部の菜園では、野菜だって収穫できる。「学校ってすごいよね。電気も水も野菜も作れるし、音楽室、図書室、放送室…。なんでもそろってる!」と由紀もご機嫌だ。学校には友だちもいるし、大好きな保健の先生・めぐねえの授業だって受けられる。そんな学校が本当に大好き。しかし元気いっぱいの由紀を、教室の外から胡桃と悠里が心配そうに見つめている。この学校は何かがおかしい… (公式サイトより)
※注意:原作マンガ・アニメ「がっこうぐらし!」は全く未見です。
主演4人の所属アイドルユニット、「ラストアイドル」の知識もゼロです。
◎大変だよ実写化は。
実写化という作業は、とにかく色んな波紋を呼ぶものです。
原作ファンからのパッシングは勿論、単純に作品自体の完成度もオリジナルもののとは明らかに異なるハードルの高さを超えることが求められています。
それは小説・マンガの原作の完成度が高い→人気が出る→メディアミックス(実写化)という流れなので、反響が起こるのも当然といえば当然なのですが。。
それではまず、実写化として成功した作品は一体何が成功したのか。
まず成功した実写化作品としてパッと思い浮かんだのは『デスノート』シリーズ、『るろうに剣心』シリーズでした。
両方に出演してる藤原竜也。凄過ぎ…
この2作品に共通するのは、
・実写化しても違和感のないビジュアル
・原作をリスペクトしている
・単純に一つの映画として見て面白い
という3要素であると考えます。
まず、ビジュアル。
実写化の時に真っ先に目につくのは、ビジュアル面です。
再現していなければ当然炎上するし、逆に再現し過ぎていてもそれはそれで不自然です。だって、2次元から3次元に完全に変換するということはできないのだから。
球である地球が、平面の世界地図として変換しても完全に再現できないように、というあまり上手くない例えでごまかします。
ショート(ボブ?)が特徴のキャラなのに、なぜ長髪なのだろうか。ショートじゃなきゃ絶対ダメ!というわけではないけれど、長髪の必然性を感じない。ロングかショートと言われたらだったら絶対後者の方が良い。
黒崎一護のオレンジ髪は完全に再現されていたのに、そこ妥協しちゃう?
演じている杉咲花さんの演技は素晴らしかっただけに、映画見ている間もその部分だけ残念さを感じてしまう始末。事務所NGというパターンもあるかもしれませんが、映画公開時の杉咲花さんはショートだっただけに、余計勿体無さを感じてしまいました。
※再現し過ぎた例:『ニセコイ』
こんな女子高生いないだろ。
とまあ、再現しなくても、再現し過ぎても難しいその塩梅は実写化の際に一番苦労するのではないかとお察しします。
(単純に作品の得手不得手もあるとは思いますが)その点『デスノート』『るろうに剣心』シリーズは違和感がないんですよね。ちゃんと再現されつつ、実際いてもおかしくないビジュアルに仕上がっている。
ある意味、ビジュアルの実写化は、再現するではなく、落とし込むという表現の方が合っているのではないでしょうか。。
そして、原作のリスペクト。
『デスノート』はノートのルールは原作から絶対変えないというセオリーがありましたし、『るろ剣』の主演・剣心を演じた佐藤健さんは、原作と同じセリフに変更してほしいと監督に提言したこともあったとか。
原作愛はスクリーンには直接出ていなくても、原作ファンなら感じ取れてしまうものなのです。
そして、何より作品自体の完成度。
何より最も求められている条件なのではないでしょうか。
いくらビジュアルを再現していても、原作のリスペクトがあっても、長い原作を無理に纏めたせいで、支離滅裂な展開になっている映画を見ることは少なくありません。
例:『銀魂』シリーズ・・・ビジュアルは本当に素晴らしいと思うのですが、展開が雑で「人気エピソード再現映像集」と化してない…? そもそも原作は言葉選びの妙で笑いを取るタイプのコメディだったのに、映画はただの顔芸、リアクション芸になってるような…?
自分は『デスノート』シリーズを最初見た時、原作マンガを知らなかったのですが、映画のあまりに面白さにたまらず古本屋でマンガを全巻買った記憶があります。
実写化の究極形は、原作未見者が見ても面白い作りになっており、その流れで原作に興味を持ってもらうことがベストだと思うのです。
(長すぎる前置きになってしましましたが)果たして、本作『がっこうぐらし!』はどうだったのかというと…
現実的なビジュアルに落とし込むのも成功していて、未見者が見ても面白い作りになっていましたよ!!
まず、ビジュアル。原作はこんな感じだそうです。
ピンク(+猫型の被り物?)、紫、アッシュ(というよりシルバー?)…
なかなか3次元の女子高生がするとは考えにくいビジュアルですね。
こちらは実写版。
さすがに髪色は再現しませんでしたが、それが正解だと思います。ピンク、シルバー髪にしたら急に3次元として不自然だよね…
でもちゃんと誰が誰だか判別できるようになっているのは、ひとえにキャストの役作りのおかげではないのでしょうか。(ピンク髪の子が左から二番目、シルバー髪の子が一番右だよね?!)
まさに、上手く落とし込んでいると言えるでしょう。(シャベル好きな女子高生がいるかと言われたら全くその通りですが…)
続いて、原作リスペクト。
自分は原作を読んでいないので詳しいことは一切不明ですが、アニメ化された時に話題になっていたのは、「一見ほのぼのな日常系アニメと見せかけて実は○○○ものだった!」だったと記憶しています。このギャップこそが最大の魅力であると。
しかし、今回の実写化で原作ファンらしき批判コメントで一番見かけるのは、「もう宣伝で既にゾンビものだって言っちゃってるじゃねーか!こんなのはがっこうぐらしじゃない!」的なのだったと思います。
↑本作の最新ポスター。確かにもう隠す気ないですね…
(それに対して、完璧な反論ができるとは到底思っていないのですが)
まず、宣伝で既に匂わせているのは、完全にほのぼの日常系として宣伝するよりも、実はもう一つ裏の面を全面的に押し出した方が、原作を知らない層のアンテナに引っかかるから、だと思います。
事実、自分もほのぼの日常系の宣伝だったら見る気は間違いなくスルーしてました。
え、実はゾンビものなの?!と宣伝した方が絶対食いつきが良いです。自分もそれにまんまと引っかかった一人です。
元々、日常系だけで訴求力があるマンガ・アニメ層とは違うので、個人的にはこの点は仕方ないと思います。映画は興行。売れてなんぼですからね。
では、全くその点に関するリスペクトは全くないのか?という問題。実はそれもNOと言えるのではないでしょうか。
映画本編では、ほのぼのとした日常から地獄の非日常へ豹変させるあっと驚く演出が施されていました。
映画を順を追って見れば、原作の魅力であろう「ギャップ」も(おそらく)ちゃんと再現されているのです。
100%ではなくても、原作のスピリッツは映画の中に存在しているのでしょう。
(原作読んでないので全て推測です。本当すみません。)
そして、作品単体としての完成度。
(失礼な発言ですが)思ってたよりもずっとちゃんとした映画、そしてちゃんとしたゾンビものであることに衝撃を受けました。
◎ちゃんとゾンビゾンビしてるよ
正直、見る前は「ゾンビものとして、果たしてちゃんと見れるものとして仕上がっているのか?」という疑問はあったのですが、思ったより、ゾンビ映画のエッセンスが注がれており感動を覚えました。
ゾンビ映画といえば、「お約束ごと」が定番じゃないですか。
それは「日常から非日常の豹変」であったり「大切な人がゾンビになっちゃった… 他の奴らなら倒せるけどあの人を倒すなんて無理だよ…」であったり「ゾンビに噛まれた!じゃあ私もゾンビになっちゃうの? でも実は…?」であったり…
結論から言うと、ほぼゾンビ映画のお約束が盛り込まれていました。
上でも書いた「日常から非日常の豹変」(このシーン、本当に鳥肌でした)、大切な人との葛藤、そして自分もゾンビと化す恐怖との戦い…驚くほど真っ当なゾンビ映画として機能していました。ゾンビ映画フリークも満足してくれるのではないでしょうか。
また、2018年に大ブレークを巻き起こした『カメラを止めるな!』を見てから本作を観ると(カメ止めのネタバレになってしまうので詳しく言えませんが)愛おしくなること、そしてキャストとスタッフ、その他この映画に関わった全ての方に「お疲れ様でした」と言ってしまいたくなること間違いなし。
ゾンビ映画って作るの大変だよね。。主演のラストアイドルの4人も本当に頑張っていたと思います。彼女たちは演技初挑戦ということで、演技がバリバリ上手いということはお世辞にも言えませんが、ゾンビ映画にとってしまえばそれも味であり、悪い方面には作用していないかと。
なお、監督によるとこの映画、ほぼ順撮りらしいので最後の方は彼女たちの演技の成長も垣間見えて、何だか別の感動を覚えましたよ。
このビジュアル、控えめに言って最高…
◎女子高生の絆、尊いな…
忘れてはならないのは、メインを張る4人。彼女ら4人の友情ものとして見ても、非常に楽しめました。
アクティブな「くるみ」、女子力高めな「りーさん」、ほんわか系女子の「ゆき」、クールだけど唯一年下の「みーくん」のぱっと見バラバラな4人があらゆる困難を乗り越えて絆を深めていく姿はゾンビ映画関係なく学園モノとしてもちゃんと成立しているのではと。「学園生活部」や文化祭、卒業式など、日常の部分も描写もしっかりしていて、対比も良かったですね。
演じた4人は、上にも書いた通り、ほぼ演技初経験だという「ラストアイドル」の現役メンバーだそうです。(彼女たちやアイドルグループのことは詳しく存じ上げないのですが)彼女自身の魅力もたっぷりで、勿論アイドル映画としてもちゃんと機能していると思いますよ。
ちなみに、多分実写化する上で一番大変だったのは「ゆき」であったと思います。
ゾンビ騒動のショックで現実が認識できなくなり、「ゾンビ騒動がなかった普通の日常の妄想世界に入り込んでしまっている」という役で、まあ普通に考えたらそんなのあり得ないだろ…と思ってしまうのですが、自分でも不思議なほど不自然に感じなかったのです。それは演じた長月翠さんの妙なのか、演出力の妙なのか…
ある意味、一番「狂気」を感じる役だったかも…
◎見てから文句を言いましょう
最後に、公開前から賛否両論が巻き起こる本作ですが、自分が言いたいことは『響 -HIBIKI-』の鮎喰響のセリフに集約していると思うので下記に引用します。
"つまらないって言うのは構わない、でもちゃんと読んで(見て)判断しなさい。そうじゃないと卑怯よ。"
+++以下、ネタバレ注意!+++
【ネタバレあり感想、ツッコミ】
◎火事はゾンビをも滅ぼす
終盤、校内で発生した火事により、学園生活部の4人は居場所を失い、学校からの移動を余儀なくされますが、その火事で全ゾンビが焼け死んだそうです。
…え?マジで?そんなので全て解決しちゃうの…?校庭にもワラワラいたのに、そいつら含めて火事で全滅?
ちゃんと理由づけしてあって見逃しただけならいいのですが、さらっとセリフだけで説明されてたので驚きました。せっかくあんなに戦ってて、葛藤もあったのに…
◎めぐねえにまさかの涙
本作最大のオチは学園生活部の顧問である「めぐねえ」先生(おのののか)が最初からゾンビ化しており、実はゾンビ騒動後の登場シーンはほぼ空想だったというものでした。いや、ゆきのように単に妄想していたのではなく、実は演出の力で、見ている観客にだけめぐねえは生きていると騙していたのです!!(確か4人は既にめぐねえはゾンビになっていると認識していたはず)
ある意味、ゆきの精神状態を観客にも疑似体験させているとも言えるかも…?(言えないかも)
これには一本取られました。ちょいちょい気になるシーンはあれど、全然気づかなかった。ゆきのことバカにできないじゃん…
原作ではどうなのか分かりませんが、まさに映画という媒体じゃないとできない演出だし、これを見れただけでも実写化の意義はあったと思うのです。
そして極めつけは、終盤、遂にめぐねえがいる保健室に向かったシーン。実は彼女はゾンビ化する前に自分をロープで縛り、誰も襲わないように自分で手を打ったことが判明したのです。ゾンビ映画はそれなりに見てきましたが、今までこんなに優しくて悲しいゾンビ化があったでしょうか…
ラストアイドルの4人も良かったですが、まさかまさかのおのののかに泣かされました。
まさかの本作の白眉。
・連想した作品
とにかく最高なゾンビ映画。新感染は泣けるシーンもあります。
アイドルグループ全体で主演を務めるアイドル映画つながり。