『スパイダーマン:スパイダーバース』感想 誰だってヒーローになれる
『スパイダーマン:スパイダーバース』
(原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse)
100点 / 100点(満点中)
ひとこと・・・革新的に見えて、実は一番スパイダーマンらしい映画かも
あらすじ:ニューヨーク、ブルックリン。マイルス・モラレスは、頭脳明晰で名門私立校に通う中学生。彼はスパイダーマンだ。しかし、その力を未だ上手くコントロール出来ずにいた。そんなある日、何者かにより時空が歪められる大事故が起こる。その天地を揺るがす激しい衝撃により、歪められた時空から集められたのは、全く異なる次元=ユニバースで活躍する様々なスパイダーマンたちだった――。(TOHOシネマズ作品紹介ページより)
◎記憶にも記録にも残ったスパイダーマン映画
まずこれだけは言わせてください。最高でした。
アメコミ映画に明るくない人の為に説明すると、本作は初のスパイダーマンアニメ映画であり、『アベンジャーズ』を始めとするシネマユニバース「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」とは全く無関係。予備知識等なくても誰でも楽しめる作品です。
また、『ヴェノム』を見た人は分かると思いますが、エンドロール後、急にテイストが変わり、殆どの観客がぽかーんとした映像。あの本編です。
「カーネイジ誕生?!エディどうなるんだ?」→「なんだこのアニメ!!」となった人は自分だけではないよね…
そして、第91回アカデミー賞では長編アニメ映画賞を獲得しました!!!
There's a hero in all of us, and we couldn't have done it without you. Thank you to the Academy for recognizing the incredible team behind #SpiderVerse: Winner - Best Animated Feature 🏆 pic.twitter.com/qxBq9dJlHq
— Spider-Man: Into The Spider-Verse (@SpiderVerse) February 25, 2019
ただの受賞ではありません。今回のアカデミー賞の中でも一番の大金星と呼び声も。
それもそのはず、この長編アニメ映画賞はアニメーション業界の第一人者であり、現在もトップを独走している「ディズニー」が牛耳っている部門なのです。今回を除く直近10年を振り返ってみても、10回中9回がディズニー作品&6年連続受賞中という無双状態の中、この『スパイダーバース』が勝ち取ったのです!
因みに今回のディズニーのノミネート作品は『インクレディブル・ファミリー』と『シュガー・ラッシュ:オンライン』の2作品。よく勝てたなと思う一方、両作品とも続編である為、思いの外票が集まらなかったという見方もできなくはないですね。。
miyagen-not-cinefil.hatenablog.com
◎スパイダーバースは良いぞ(一言で纏めると)
本作の凄いところ、大まかに分けると以下になるのではないでしょうか。
① マンガからそのまま飛び出してきたようなタッチ!!
②主人公がピーターじゃないのが良い!そしてどのスパイダーマンも魅力的!!
③スパイダーマンの物語の本質を確実に突いてる!!
①については、オープニングからその特徴が炸裂してましたね。アメコミのアイデンティティーと言うべき、ビビットな原色&ドット(トーン?)がそのまま再現されていて、それが大スクリーンで縦横無尽に動き回っているのです!!
所謂日本的なアニメーションでもない、かといってディズニーお得意のCGアニメでもない。唯一無二のタッチが未体験の映画体験へ誘ってくれました。
それに加え、これまたコミックの特徴である「吹き出し」も完全再現されていたのは驚くばかり。もはや、アメコミ映画というより、動くアメコミと表現した方が適切なのでは…??
また、スパイダーマンのマスクも表情豊かに描かれていたのも個人的には嬉しかった。これは実写版では特に再現しづらい部分で、どうしてもマスクの下の表情が見えない問題点(?)がありましたが、(まあ日本人は仮面ライダーを始めとする特撮で慣れてますが)今作ではアニメーションのその特性を活かそうとばかりに表情豊かなスパイディーがたくさん描かれていたのには涙が出そうになったよ…
まさに、アニメというフォーマットでしか成立しない作品だったのではないでしょうか。
コマ割りも非常にマンガ的。
②はこの物語の肝と言える部分ですが…とにかくキャラが濃い。
スパイダーマンという作品に少しでも触れたことがある人なら「スパイダーマン=ピーター・パーカー」ということは周知の事実だと思います。しかし今回ピーターは主人公ではありません。
主人公は中学生のマイルス・モラレス。名門の中学校に通って親の期待に応えたい一方、趣味の絵を描くことも捨てきれないという、思春期にありがちな誰しもが共感できるキャラではないでしょうか。 そんなマイルスがある日突然スパイダーマンの能力を手にすることとなり、最初はその能力をうまく使いこなすことができなかったり、力を手にしたことの責任について苦悩したり…そして犠牲も払うことに… うん。完全にスパイダーマンですね。ピーターでなくても、スパイダーマン好きなら必ず受け入れられる、最高の主人公でした。透明化や電撃と行ったオリジナル要素も混ぜていたのも良かったな……(能力の感じが若干X-MENのミュータントっぽかったけど)
勿論、ピーター・パーカーも登場しますが、メインで出てくるのは「ピーター・B・パーカー」という、まさにB面というべき裏のような存在。MJにも振られ自暴自棄、中年脂肪でスーツからも見える残念体系… そしてスパイダーマンスーツの上にスパッツを履くという、前代未聞の残念ヒーローっぷり。そんな"B"ピーターがバース(次元)を超えてマイルスの世界に迷いこむのですが… 最初は邪険にしか扱っていなかったマイルスに対して徐々に師弟のような関係を築き始め、ピーター自身もかつての"ヒーローとして"の自分を取り戻していく… うん。完全にスパイダーマンですね。(2回目)元々人間臭さが特徴のスパイダーマンということもあり、「ダメ人間」という要素も意外とマッチしているように感じた一方、基本的に一人で戦うスパイダーマンにとって、「師匠と弟子」のような関係はとても新鮮に映りました。『マイティ・ソー』や『アントマン』、『ドクター・ストレンジ』等、師匠から力を受け継ぐヒーロー自体はポピュラーな設定ですが、スパイダーマンにとってはその要素が希薄な印象だったので。(『スパイダーマン:ホームカミング』ではアイアンマンとスパイダーマンが師弟のような関係でしたが、あちらは全く異種のヒーロー同士だし。)まあ、蜘蛛に噛まれて能力を手にするという、継承とは無縁のタイプのヒーローだからねぇ。。
他にもクールビューティーで間違いなく良いオンナNo.1候補のスパイダーグウェン、言うまでもなく日本のMANGA文化に触発されているペニー・パーカー、渋くてカッコいいという、これも今までになかったスパイダーマン・ノワール、もはや人ですらないスパイダー・ハム等、一人一人書いていくとキリがないほど、どのバースからやって来たスパイダーマンも魅力的。誰が見ても必ず一人は推しスパイダーマンが見つかるのではないでしょうか?? というか、もうスパイダーマンオンリーでアベンジャーズにも劣らないチームが結成できそうな勢い。むしろ、同ユニバースから集ったアベンジャーズよりもバースを超えてやって来たスパイダーマン達の方がよっぽど奇跡のチームですね。
君はどのスパイダーマンを応援する!?
③に関しては、これほど奇抜な設定ながら、ちゃんとスパイダーマンの本質というべき設定を描き切っている。冷静に考えなくても凄い。
上でも少し書いた通り、ある日突然能力を手に入れることによる苦悩も大事な要素ですが、「自分の能力を過信し過ぎたことによる犠牲と、その喪失から立ち上がる姿」こそ、このスパイダーマンという作品の本質ではないでしょうか…?
そして、その犠牲という経験を各スパイダーバースから集まってきたスパイダーマン達を一つにまとめるフックになっていたことにはもう感嘆以外の感情が見つかりません…凄い…
超人的な力を手にするまではヒーローもヴィランも同じ。その力に対してどう責任を持ち、どう使うかがヒーローとヴィランを分ける鍵。この点に関しては150%の完成度でした。
ヴィランに関しても、その正体が実は主人公の知り合いだったということがスパイダーマン作品のお約束であるのですが、(詳しくはネタバレになりますが)これもしっかり押さえてましたね。他にもスパイダーマンのコスチュームを作っていく過程もちゃんとあり、これもお約束なので嬉しかったなぁ…
今までの実写映画でも、上記の要素は勿論ありましたが、今作『スパイダーバース』は一見、スパイダーマンという路線から外れた革新的な作品に見えつつも、中身はちゃんと本質を突いている。しかも、それはひょっとしたらどの映画にも負けてないかも。
初心者が見ても、長年のスパイディーマニアが見ても同じように楽しめる、もはやスパイダーマン映画における最高峰なのではないでしょうか…?
なお、MCUスパイダーマンの続編である『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が奇しくも同じ年に公開予定。スパイダーバースの影響でめちゃめちゃハードル上がってるけど大丈夫なんですかね……??
トム・ホランド版スパイディーも大好きなので勿論期待してます
+++以下、ネタバレ注意!+++
【ネタバレあり感想、ツッコミ】
◎誰でもスパイダーマンになれる
つまるところ、この作品で一番感動したのは、"ただのスパイダーマンファン"でしかなかったマイルスがスパイダーマンというヒーローになるまでの成長譚だったということかもしれません。
それは、誰でもスパイダーマン(ヒーロー)になれるんだという製作陣からのポジティブなメッセージであり、ずっとスパイダーマンが好きだった人間にとってはこんなに嬉しいことはないですよ。マイルスの姿に自分を重ねる観客も少なくなかったのでは?と思います。
そういえば、スパイダーマンというアメリカ生まれのヒーローが日本でも受けたのは、仮面ライダーやウルトラマンのようにマスクを被っているので、その姿に自分を重ねることができる"日本的な"ヒーローだから、という話を聞いたことがあります。そういう意味でも実にスパイダーマンらしい映画だったなあと。
また、ずっと孤独感を感じていたマイルスが、別次元からやってきた同じスパイダーマン達との出会いによって、自分は一人じゃないと実感することも良かった…
現実世界で居場所がない人でも、どこかに自分と同じような思いを抱えている人がいるんじゃないか、いや、この世界にはいなくても、別次元のどこかにでもいるんじゃないか、というポジティブなメッセージも内包しているように感じ取れました。
本当にどの観点から見ても手放しで絶賛できる。。まさに満点の映画でした。
…あれ、特にネタバレ関係ない感想になってしまったな。。以下、作品を通しての雑記・ツッコミetc↓
○能力の暴走により、グウェンの髪の毛をごっそり抜いてしまうマイルス。これで怒らないグウェン、マジイケメン。普通だったら絶交とかいうレベルじゃないだろ…
○ピーター家にあるスパイダーマン用の秘密基地、そしてメイおばさんの頼れる執事っぷり。ここだけやけにバットマンっぽかった。(秘密基地=バットケイブ、メイおばさん=アルフレッド)コスチュームを並んで飾っているのはアイアンマンっぽいかな?
○メインヴィランのキング・ピンは主にデアデビルの敵という認識でしたが、原作でもスパイダーマンとも関わりあるんですね(共にNYのヒーロー)。どちらかというとレックス・ルーサーのように賢い頭脳でヒーロー達を追い詰めていくタイプだと思ってましたが、ピーター(スパイダーマン)をその腕だけで瞬殺したのには驚きました。こいつもうハルクだろ…
○スパイダーバースの一人、ペニー・パーカー。見たときから明らかに日本のファン層を狙い撃ちしているあざと可愛いキャラだな〜と思ってましたが、やっぱりというべきか、見事に釣られている人続出なのは笑いました。Twitterで「ペニーパーカー」と検索すると幸せになれます。
スパイダーマン:スパイダーバース(SpiderVerse)はペニー・パーカーちゃんに釣られて観ても面白いので観てください 。釣られた者より pic.twitter.com/zPAgJSlt3V
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○声優ネタ。スパイダー・グウェンの声を担当したのは、『バンブルビー』で主人公を演じているヘイリー・スタインフェルド。マイルスが慕っているアーロンおじさん(実はヴィランのプラウラー)の声は、もはや今や時の人と言っても過言ではない、マハーシャラ・アリ。『アリータ』『グリーンブック』、そしてこの『スパイダーバース』と同時期に映画館で3本も出演作がかかっているという凄まじい売れっ子っぷり。そして、スパイダーマン・ノワールの声は、あのニコラス・ケイジ。あれ、あなたは別のヒーローのファンじゃなかったっけ…?
・連想した作品
実写版のスパイダーバース達。いつかこの3人が共演する日が来るのかな。。
奇抜に見えて、実は一番作品の本質をよく描けていた作品繋がり。クリストファー・ノーランいじりのオープニングは必見。