シネフィルとは呼べなくて。

主に新作映画のレビュー、感想など。不定期に更新予定。 TwitterID:@not_cinefil

『ブラック・クランズマン』感想 ブラック・パワー!!

『ブラック・クランズマン』

(原題:BlacKkKlansman)

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80点 / 100点(満点中)

ひとこと・・・グリーンブックの涙が引っ込んだよね…

 

あらすじ:1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は初の黒人刑事として採用される。署内の白人刑事から冷遇されるも捜査に燃えるロンは、情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKKクー・クラックス・クラン>のメンバー募集に電話をかけた。自ら黒人でありながら電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。騒然とする所内の一同が思うことはひとつ。 

KKKに黒人がどうやって会うんだ?

そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立つ。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じることに。任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのか―!? (公式サイトより)

 

bkm-movie.jp

youtu.be

 

◎『グリーンブック』とは似て非なる対照的な作品

『グリーンブック』『ブラックパンサー』等、黒人映画の勢いが特に顕著だった第91回アカデミー賞。その中で脚色賞を受賞した作品です。

作品賞こそ 『グリーンブック』に譲る結果になりましたが、監督のスパイク・リー始め、本作のスタッフ陣はこの結果にあまり納得していない様子でした。

miyagen-not-cinefil.hatenablog.com

↑これについては前回の記事で言及済み

 

『グリーンブック』を見た時点でも色々予測はできましたが、こちらを見ると彼らが納得できなかった理由がよく分かります

まずこの二本、プロット自体はよく似ているんです。「黒人と白人が(ビジネス)コンビを組む」「黒人を虐げている環境に乗り込む」という点では共通しているのですが…

中身が全然違いました。『グリーンブック』では「かわいそうな黒人を助ける賢い白人」だった構図に対し、こちらは「賢い黒人が(愚かな)白人をやっつける」という、まさにブラック・パワーが炸裂してる映画でした。

そして、白人と黒人の融和を描いていた前者に対して、徹底的に黒人と白人の対立を描いていました。「グリーンブックの言ってることは絵空事だ!!これこそがどうしようもない現実なんだ!!」というスパイク・リー監督の声が聞こえてきそうな勢いです。

 (『グリーンブック』については前回の記事で書いた通り、人種の違いはそこまで重要な要素ではないと思うので、どちらが劣っているという問題ではないですが…)

 奇しくも、同じ年のアカデミー賞にノミネートされていた2作、コインの表と裏のような存在なのかもしれませんね。

 

また、第81回カンヌ国際映画祭では、次点のグランプリを獲得した作品でもあります。同年の最高賞のパルム・ドールは、 ご存知の通り『万引き家族』。

是枝監督はこの作品に勝ったのか…と改めてその快挙に驚くばかりです。どちらも、貧困と差別という、その国で起きているどうしようもない現実を描いたという点では共通してますね。

 日本では万引き家族の話題ばかりでしたが、グランプリ取ってたとは…


◎最高にロックなコンビ

さて、黒人と白人の対立を描いている作品ですが、映画自体は基本的にコメディーで何の予備知識がなくても普通に楽しめます。 洋画は社会問題を絡めつつも、一つの作品としてちゃんと面白く仕上がってるのは本当に羨ましく感じる限りです。日本でそのクオリティーに達しているのは前述の『万引き家族』を作った是枝作品ぐらいじゃないかなあと。

 

そんな映画を支えているのは二人のコンビ。"電話"でKKKに潜入する黒人刑事ロン・ストールワース役は、ジョン・デヴィット・ワシントン。最初はあまり馴染みのない役者だな〜なんて思ってましたが、ファミリーネームの「ワシントン」。。これってまさか…

そう、あの名優デンゼル・ワシントンのリアル息子なんですね。これ、知ってる人まだ少ないのでは?? もっと宣伝にも使えばいいのになぁ…というのは勝手な妄想。

言われてみれば、確かにデンゼル・ワシントンの面影あるかも…?(でも言われなきゃ気付かないかも) 

お父さんもスパイク・リーの『マルコムX』等で主演経験があったり、そもそも彼自身も俳優デビューがこの『マルコムX』だそうな。ワシントン家とスパイク・リーとの不思議な縁。。(ただの縁故採用ではないと信じたい)

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多分アフロじゃなきゃもっと判別つくのだろう… 因みに隣のパトリス役のローラ・ハリアーは『スパイダーマン:ホームカミング』でお父さんがビックリのピーターが片想いする同級生・リズを演じていました

 

そして、"影武者"でKKKに潜入するフリップを演じたのはアダム・ドライバー。『スター・ウォーズ』新シリーズでファースト・オーダーの幹部、カイロ・レン役で有名ですね。元々軍人(海兵隊)だったこともあり、佇まいだけでも非常に様になる俳優だと思います。

潜入するにあたり、どう見てもノリノリでやっているようにしか見えない差別発言のマシンガンっぷりと、実は彼もユダヤ人というKKKが排除する対象の人種であり、今まであまり考えてこなかった自身の出自について悩むシーンが印象的でした。受賞こそ逃したものの、本作の演技でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。

そういえば、スター・ウォーズでの真っ黒の装束とはうって変わり、真っ白の装束(しかもマスク付き)を着ているのは、何とも言えない皮肉を感じたり、感じなかったり…笑

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真っ白なカイロ・レン

 

とにかくこのコンビの演技が最高of最高。『グリーンブック』のトニーとシャーリーの魅力にも劣らないロックなコンビでした。でもこの二人は仕事以外では一切関わることはないだろうな…

 

◎嘘のようで本当の話

本作の特徴は何と言っても、黒人がKKKに潜入するというにわかには信じられないストーリー。数多くの脚色はあれど、「さすがにこれはフィクションだろ…」というエピソードも実は忠実だったというのが更なる驚き。。

 忠実①→ロンは本名でKKKに潜入した・・・これは何と本当のことだそうで… 潜入捜査といえば偽名を使うのが鉄則な気がしますが、映画では電話で、忠実では手紙でついうっかり本名でKKKに入会してしまったそう。本当によくバレなかったな…

忠実②→ロンはKKKの最高幹部デュークに本当に電話で話して、白人だと信じこませた・・・劇中でロンはKKKの本部に電話したらまさかの最高幹部のデビット・デューク(トファー・グレイス)に繋がる、というシーンがありましたが、ロンが実際デュークと会話したのは本当だそう。そして、実際本当に黒人だとバレずに彼をやり込めたそうな… ロンがすごいのか、デュークがあまりすごくなかったのか…

 忠実③→ロンは黒人刑事として本当にデュークを警備した・・・白人としてKKKに入会した(偽)ロン=フリップに会いに行く為、コロラドスプリングにやってくる最高幹部・デューク。そこで警備担当に配属されたのが何と(リアル)ロン。デュークが本物だと信じて疑わない(偽)ロンのほんのすぐ近くに(リアル)ロンが立っているという最高に面白おかしいシーンなのですが、何とロンがデュークを警備したということは事実だということ。さすがにこれはフィクションかと思ってた。。白人至上団体の幹部が黒人に警備されるということ自体わけがわからないのに…

 

さすがにフェリックスたちが起こした爆弾騒ぎはフィクションのようですが、突拍子もない事実と突拍子もないフィクションがシームレスにミックスされており、何が本物で何が偽物なのか判別がつかない演出になっているのは流石スパイク・リー、といったところでしょうか。 

演出といえば、本作はテイストが驚くほどコロコロ変わるのが非常に印象的でした。シリアスなシーンからコメディシーン。ディスコ映画のような雰囲気から急に緊迫した場面。ジェットコースターのように観客を揺さぶるスパイク・リーなのでした。

 

また、実際の映画も引用されていたことも印象的。冒頭で流れていたのは『風と共に去りぬ』、KKKの集会で見ていた映画は『國民の創世』という作品だそうです。共に映画史に残る名作ですが、実は「ナチュラルに黒人を愚かな存在として見下している」という共通点があり、黒人が憎むべき映画という裏があるチョイスだったんですね。

 

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電話のシーンは基本コメディ。ズレたまま話がどんどん進んでいく感じ、日本のコント番組でありそうだなぁと笑

 

◎黒人と白人の戦争。だけど…?

前述の通り、黒人と白人の対立を徹底的に描いている本作。あまり馴染みがない日本人が見ると、「こんなに過激なの?!」と驚くこと間違いなしだと思います。過激な白人至上団体であるKKKは勿論ですが、黒人側も「白人にやられっぱなしでいいのか?!今こそ武器を取るべきだ!」と演説でかなり煽っていて、少々危険な雰囲気。 「ブラック・パワー!」と叫び、めちゃめちゃクールに描写されてはいるものの…?

正直、どちら側も実はあまり変わりないのでは…?と思わせる作りになっていたのは見間違いではないよね…?

 スパイク・リーのことなので「KKKは絶対悪!俺たちこそが正義!!!」と言わんばかりの作りになっていることとばかり思ってましたが、驚くほどにKKKの団員の描写も丁寧に行われていて、特にクライマックスのKKKの入団儀式と黒人の学生ユニオンが開いた集会に関しては、信じられないほどに対照的な演出で、両者の違いをあぶり出している一方、実はこの二つの組織は本質的には似ている…?と考える余地がそこには確かにありました。

勿論、KKK側は悪であり、黒人達が憎むべき対象であるということは話の大前提なのですが、潜在的に、"黒人も白人も実は肌の色しか変わらない似た者同士なのに、お前らはどうしてそんなに争い合うんだ"というメッセージが組み込まれていた…という考察は少々乱暴でしょうか… しかし「黒人がこっそり白人至上団体に入会できた」という映画のシノプシスから考えても、肌の違い以外はそれほど違っていないことを証明しているのかもしれません。

 黒人と白人の対立を描いているが、実は「いつまでそんなことで争っているんだ」という融和を裏で叫んでいる作品なのかも、と遥か極東の国で観た感想を率直に述べました。スパイク・リー監督違ってたらごめんなさい)

 

融和と見せかけて、実はどうしようもない人種の溝がちらほら垣間見えた『グリーンブック』。やはり両者は「コインの表と裏」のような存在なのかも…?

 

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+++以下、ネタバレ注意!+++

【ネタバレあり感想、ツッコミ】

◎主人公のロンに一つの疑問点

 本作の主人公ロン・ストールワース。基本的には好きなキャラでしたが、一つ疑問点が。それは彼の行動の動機が全然見えないこと。コロラドスプリングで初めての黒人、そして最年少の警察官になった動機もほとんど描写されず、いつの間にか警察官になっていました。そして、特に主だった理由もなくいつの間にかKKKに電話してました

普通、"○○の理由があって、大変な道だけど警察官の道に進むぞ!or KKKに潜入捜査するぞ!"的なシーンが導入されて、それが物語のカタルシスに繋がるもの。

『グリーンブック』のトニーにしても、"職場のクラブが改装で働き手がない"&"家族を養っていくお金がない"&"腕っぷしが良いと聞きつけたシャーリーが黒人であるが故のトラブルを彼が解決してくれそう"という丁寧な物語への理由と動機付けがあったからこそ、終盤の感動に繋がったのではないでしょうか。

しかし本作のロンはその描写が明らかに乏しい。(一応、後にパトリスとの会話の中で警察官を目指した理由に少し言及があり、またKKKに電話する前にクワメ・トゥーレの演説を聞いて感化されたというシーンは挟んでましたが、それがKKKに潜入しようと思った直接の理由とは言い難いし…)

もはや意図的に共感性を排除しているのでは?という感覚も。今もご存命の実在の人物だから?うーん、答えが出ない…

 ロンの過去周りをより丁寧に描写してくれたらラストももっと感動できたような気もしないでもない。。

◎こんな怖いオチ見たことない

 本作のラストはKKKのフェリックス達が密かに計画していた爆弾テロをロンとフリップのコンビが事前に阻止!!潜入捜査は大成功で任務を終えたのでした。 めでたしめでたしで、気持ちいいハッピーエンドで締めるのかと思いきや、映画は急転換。いきなり、現実の映像が映し出されました。そこには、現代のアメリカで黒人による白人対抗デモの最中、どこからか車が突っ込む大惨事。パニックを起こす群衆… それに対する「どちらも悪かった」と白人の加害者側もなぜか庇うトランプ大統領。そして、映画の中で悪の権化として描かれた元KKKの最高幹部(現在は政界進出)デビット・デュークの実際の映像。そして、(どう聞いても)トランプ大統領を支持している内容の演説。。

そう、映画の中で時に笑いながら見ていた世界は、実は現代でも全く変わっておらず、そして、KKKの最高権力者が支持している人物こそ、今のアメリカの頂点に君臨しているという、最悪極まりないバッド・エンドだったのです。

あまりに酷すぎるよこれは… 最後の最後に監督からのとんでもないメッセージが待ち受けていました。今の現代社会をオチに使うという前代未聞の手法。こんなの見たことない。

よくある映画のキャッチコピーである「ラスト5分、衝撃のラスト!」。まさにこの作品に使うべきではないでしょうか。

 

 

 

・連想した作品

 "黒人に扮する白人"がとにかく強烈なロバート・ダウニー・Jr。今だったらこの映画作るの絶対無理だろうな…

 

 スパイク・リー出世作。因みにこの年のオスカーも同じく黒人と白人が車に乗る映画に阻まれたそうで。。