『クリード 炎の宿敵』感想 親の血は争えないけど
『クリード 炎の宿敵』
(原題:Creed II)
90点 / 100点(満点中)
ひとこと・・・問答無用でアツい!!!
あらすじ:『ロッキー4/炎の友情』で最大のライバルにして親友のアポロは、ロシアの王者イワン・ドラゴと対戦。壮絶なファイトを繰り広げた末に倒され、そのまま帰らぬ人となった。あれから歳月が流れ、ついにその息子同士がリングに上がる。シリーズに新風を吹き込んだ傑作と全世界から大絶賛を受けた『クリード チャンプを継ぐ男』でロッキーのサポートを受け、一人前のボクサーへと成長した亡きアポロの息子、アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)。対する相手はドラゴの息子、ヴィクター。ウクライナの過酷な環境から勝ち上がってきた最強の挑戦者だ。アドニスにとっては、父を殺した男の血を引く宿敵となる。アポロVS.ドラゴから、アドニスVS.ヴィクターへ。時代を超えて魂のバトンが手渡される因縁の対決。絶対に見逃すわけにはいかない。世紀のタイトルマッチのゴングが、いま鳴り響く! (公式サイトより)
言わずもがな、名作シリーズの『ロッキー』。
そこから派生した、ロッキーの親友アポロの息子アドニスを主人公に迎えたスピンオフ『クリード/チャンプを継ぐ者』の続編です。
ロッキーシリーズは勿論、このクリードも本家に負けず劣らず号泣必須の映画です。
また、シルベスター・スタローンをまた賞レースの世界にカムバックさせ、(個人的にはあの年のアカデミー賞はスタローンが獲って欲しかった…!)監督のライアン・クーグラー、主演のマイケル・B・ジョーダンコンビはこの後『ブラックパンサー』で全米歴代興行収入第3位の特大ヒットを飛ばします。まさに『ロッキー』と同じく、現実でもアメリカン・ドリームをまたしても掴んだ作品なのです。
なお、ライアン・クーグラー監督は本作では『ブラックパンサー』制作の為降板、スティーヴン・ケープル・Jr.監督に譲っています。
そんな続編の「炎の宿敵」ではタイトル通り、『ロッキー4/炎の友情』の実質的な続きの話が展開されます。
ロシア(ソ連)のアマチュアボクシングヘビー級王者ドラゴがアポロと対戦→アポロは一方的にやられてしまいそのまま帰らぬ人に…→ロッキーが親友アポロの思いを胸に猛特訓→ソ連に乗り込み見事のドラゴに勝利する!
と言ったストーリーなのですが、今回はそのアポロの息子とドラゴの息子が対決する話です。なんて分かりやすいんだ。
◎ある意味、王道でオーソドックスな続編
今作冒頭でアドニスはチャンピオンベルトを手にし、恋人ビアンカとも結婚、子どもも生まれる等、公私ともに絶好調です。
そんな中、ロシアからロッキーとの敗北で全て失ったドラゴ親子がやって来るのですが…
この先の話の大筋は驚くほど『ロッキー4』と似ています。しかし、それがいいんです。
ロッキーとしての『ロッキー4』は大ハッピーエンドで終わりましたが、「クリード家」としての『ロッキー4』はバッドエンドのままです。
ドラゴ家としてのリベンジマッチではあるのですが、ある意味クリード家としてのリベンジマッチでもあるのです。それも尊敬するロッキーの元でドラゴを倒した同じ道筋を辿る。こんな熱い展開はありません。
ベタかもしれないけど、確実に熱くなれるのがロッキーシリーズのスピリットです。
◎ロッキーとアドニスの関係
個人的に『クリード』で何よりも好きだったのは、アドニスと師匠・ロッキーの関係なのかもしれません。殆ど父のことを知らないアドニスにとって、ロッキーは父親であり、勿論ボクシングの偉大な師匠であり、また人生の転機の時はいつも傍にいてくれる親友でもあるのです。それはロッキーにとっても同じで、息子と上手くいってない彼にとっても息子であり、愛弟子でもあり、親友でもあるのです。
単に師弟としての関係を超えてしまっているのに、二人の会話はどこかフレンドリーでラフ。しかし二人ともリスペクトし合っていることが垣間見える…
こんな尊い関係性、他にありますかね。控えめに言って最高です。
今作ではドラゴとの対決を巡って一度は袂を分かつのですが…?その先にある顛末は号泣必須です。
試合前にも関わらずロッキーに「髪型変えた?」と軽口を叩ける関係性が素晴らしいんですよね
◎「勝者」以外の視点
『クリード』から新機軸となったのは、主人公以外の視点が明確に描写されるようになったことだと思います。『ロッキー』シリーズでは絶対的な主人公「ロッキー・バルボア」がいたので、その他の視点は描きにくい側面がありましたが…
ロッキーが中心から降りたことで、勝者だけの感動だけではなく、複雑で立体的な新しい感動をもたらすことに成功していると思います。
例えば、敗者の視点。勝負には勝者も生まれるが、敗者も生まれる。敗者の人生を生きたイワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の悲哀に満ちた表情もこの作品の大事なハイライトになっていました。
また、ドラゴの息子、ヴィクターも父親の思いを汲み復讐の鬼と化しますが… この道しか選ぶことができなかった彼も、ただの典型的な悪役ではなく、良い味を出していましたね。ちなみにヴィクターを演じたフロリアン・“ビッグ・ナスティ”・ムンテアヌは本当に現役のボクサー。とにかくめっちゃ強そうです。彼も本作のオーディションの為に全てを捨ててきたとインタビューで語っていたように、他に選ぶ道がない覚悟の男はまさに役と同化していました。
そして、ある意味では「傍観者」であるロッキー。勿論アドニスのトレーナーとして支えていますが、チャンピオンの座は既にアドニス。彼も勝者以外の視点の持ち主なのです。チャンピオンになったアドニスを見る彼の背中は嬉しくはあり、どこか寂しそうでもあり… あのロッキー・バルボアが「CRRED」と書かれたジャケットを羽織っている。まさにそれはロッキーの時代ではなく、クリードの時代に移り変わっていくことを意味しているのではないでしょうか…
しかしながら、スタローンにはまだまだロッキーを演じ続けて欲しいし、まだまだ『クリード』シリーズの中でも元気な姿を見せて欲しいものです。ホントに。
やっぱり、彼あってこそのシリーズです。
◎とにかく、アツいファイトシーン
本シリーズのクライマックスである、ファイトシーンも他のロッキーシリーズと負けず劣らずめちゃめちゃアツいです。『ボヘミアン・ラプソディ』のように、全てのシーンがラストのクライマックスへお膳立てしていく演出となっているので、とにかく胸熱です。
タダでさえアツいのに、「ここしかない!」というタイミングで流れだす「ロッキーのテーマ」。こんなん泣くしかないじゃん…
ここしかないタイミングで流れ出すのは前作でも同じでした。本当ズルい…
この感動はとても文字で表すことができないので、是非劇場へ。
伝説のテーマ。泣く。とにかく泣く。そして走りたくなる。
+++以下、ネタバレ注意!+++
【ネタバレあり感想、ツッコミ】
◎ブラックパンサーに似すぎ問題
本作、改めて見ると前作の監督であるライアン・クーグラーが次に作り上げた『ブラックパンサー』にプロットがそっくりなんですよね。
・親世代に起こった因縁がそのまま子に受け継がれ、代理戦争。
・対決を仕掛ける方の理由は、完全に逆恨み。
・主人公の方は周りから勝負を反対されるが、結局勝負を受ける。
・一度はヴィランの方が完膚無きまでに叩き潰し、完全勝利。
・死の淵から蘇り、猛特訓の末、相手の陣地で見事リベンジを果たす。
どうです、そっくりですよね?
偶然なのか必然なのかは知る由もないですが、両作品とも大ヒットしているあたり、アメリカ人はこの手の話が大好物のようです。
因みに『クリード』ではヒーローサイドだったマイケル・B・ジョーダン、『ブラックパンサー』はヴィラン側のキルモンガーでしたが、ともに親世代の因縁で父親を殺されているという共通点を持っています。
また、『ブラックパンサー』と同じ世界観を共有しているMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)内である『マイティ・ソー バトルロイヤル』で、アドニスの妻ビアンカ役だったテッサ・トンプソンは女戦士ヴァルキリー役で出演しています。そしてシルベスター・スタローンも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』でスタカー役として出演しています。
キルモンガー含めたこの3キャラクターは、直近の作品に出ておきながらニアミスで『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』には出れなかったという共通点を持っていたりもします。ヴァルキリーなんて冒頭のシーンのほんの直前までいたはずなのに…
そういえば、アドニスはヴィクターに殺されると思わせるぐらいにボコボコにされますが、やけに回復が早いのが気になりました…ワカンダ秘伝のハーブを使ったのかな?
・子は親の因果を受け継ぐ。けど…
結局、本作で伝えたかったことは「親の血は争えない、けど自分の道は選べる」ということに尽きると思います。(アドニスとビアンカの間に生まれた子どもが、ビアンカのハンディキャップである先天性難聴を受け継いでしまったことが全てを表しているのではないかと)
アドニスとヴィクターは親の因縁から対決を行いましたが、勝負の結果、彼らは新しい道に進むことが示唆されていました。
アドニスは今回で明らかに父親アポロの因果を超えましたし、ヴィクターは敗北後、明らかに試合目とは違う表情で父親と練習に励む姿がありました。
ビアンカだって、ハンディキャップがありつつも、素晴らしいシンガーとして活躍しています。
きっと、アドニスとビアンカの子どももハンディキャップに負けずに、逞しく成長していくことでしょう。
人生は何かに縛られるだけじゃなく、新しい道に進める力も持ち合わせているのです。
あれ、これもブラックパンサーにそっくり…?
・連想した作品
もはや映画史に残る1作。個人的には韓国のシーンがお気に入り。
元祖(?)父子もののシリーズ。こちらでも子が父親の因果を超越したと思いきや、最近どうやらそうでもないっぽいということが判明…