『翔んで埼玉』感想 SAITAMA・ラプソディー
『翔んで埼玉』
45点 / 100点(満点中)
ひとこと・・・よくヒットしたなあ…
あらすじ:埼玉県の農道を、1台のワンボックスカーがある家族を乗せて、東京に向かって走っている。カーラジオからは、さいたまんぞうの「なぜか埼玉」に続き、DJが語る埼玉にまつわる都市伝説が流れ始める――。
その昔、埼玉県民は東京都民からそれはそれはひどい迫害を受けていた。
通行手形がないと東京に出入りすらできず、手形を持っていない者は見つかると強制送還されるため、埼玉県民は自分たちを解放してくれる救世主の出現を切に願っていた。
東京にある、超名門校・白鵬堂学院では、都知事の息子の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が、埼玉県人を底辺とするヒエラルキーの頂点に、生徒会長として君臨していた。
しかし、アメリカ帰りの転校生・麻実麗(GACKT)の出現により、百美の運命は大きく狂い始める。
麗は実は隠れ埼玉県人で、手形制度撤廃を目指して活動する埼玉解放戦線の主要メンバーだったのだ。その正体がばれて追われる身となった麗に、百美は地位も未来も投げ捨ててついていく。
2人の逃避行に立ちはだかるのは、埼玉の永遠のライバル・千葉解放戦線の一員であり、壇ノ浦家に使える執事の阿久津翔(伊勢谷友介)だった。
東京を巡る埼玉vs千葉の大抗争が群馬や神奈川、栃木、茨城も巻き込んでいくなか、伝説の埼玉県人・埼玉デューク(京本政樹)に助けられながら、
百美と麗は東京に立ち向かう。果たして埼玉の、さらには関東の、いや日本の未来はどうなるのか――!? (公式サイトより)
◎まさかまさかの大ヒット
2019年の映画界でとんでもない旋風を巻き起こしている一作。
大まかに「100万人&10億円を超せば大ヒット」と言われる邦画界で、それを軽々と突破。しかも興行収入の下落率も低く毎週安定した成績を残していました。
ついに、ここまで来たか、「翔んで埼玉」。3月31日時点で、興収29億0242万円を記録した。30、31日の興収は、前週土日の94・3%というから、公開1カ月以上経ってのこの落ちの少なさにも驚く。35億円突破の可能性が出てきた。
— 大高宏雄 (@Hiroo_Otaka) April 1, 2019
更に、さいたま新都心の映画館では所謂「聖地」のような扱いになっているそうで… 公開から1ヶ月を軽く経過しても、館内最大キャパのスクリーンで1日フル回転の上映が続けられていたという異常事態。
正直、ここまでヒットするなんて全く×10思ってませんでした。(それはキャストも同じように言ってますが)
この映画の予告編を映画館で見た第1の感想としては「埼玉自虐なんてローカルネタ全国ロードショーでやっても受けないだろ…」「予告編の出オチ感…」というものでした。まあ、2〜3週間ぐらいでシネコンで上映されてひっそり消えていく、量産型の邦画程度にしか考えてしなかったのですが… 蓋を開けたらこの大ヒット。映画というものは、本当に良く分からないものですねえ。。
◎深く考えてはいけない
そんな大ヒット街道をひた走っている作品ですが、中身は驚くほど何もない。本当に、驚くほど何もない。上にストーリー載せましたが、読んでも何がなんだかさっぱりだよ…
一応、現実(?)の埼玉県民がラジオを聴くという形で物語は進んでいくのですが、その中のストーリーも外のストーリーも本当にどうでもいい。争っていることがくだらなさすぎて、かえって、客層を選ばないで気楽に見れるという効果を生み出しているのか…? まあ、たしかにくだらないくだらないと言いながらも、何だかんだ飽きずに見れたもんな。。
埼玉の自虐という、本当にくだらないネタを無駄に豪華に、そして真面目に作り上げた製作陣の勝利でしょう。
都内の空気当てとかいう狂気。というかその瓶じゃ空気逃げるだろ…
◎関東以外の人が見ても笑えるのか?
本作のコメディ要素としてはおおよそ二点が挙げられると思います。一つは執拗な程の「埼玉」連呼。そしてもう一つは関東に住んでる人にとっての「関東ヒエラルキー」あるある。
前者については、特に地域関係なく楽しめるのではと思います。動詞、形容詞、名詞その他セリフに何でも「埼玉」が入っているので十中八九ゲシュタルト崩壊すること間違いなし。また、一流の役者がいたって真剣に「埼玉」連呼してるのも面白すぎる。伊勢谷友介が真面目に「貴様、埼玉だな?」って言って笑わない人いないでしょう。
こんなはっちゃけた伊勢谷友介を見れるのは翔んで埼玉だけ!
しかし、後者についてはどうだろう。関東ヒエラルキーはそこに住んでいる人以外はなかなか理解しづらいのでは?というのがまずこの映画の予告編を見た感想でした。関東にとっての「東京」は頂点という立ち位置までは理解できると思いますが、埼玉の何もなさっぷりを他県から馬鹿にされていることや、千葉の東京に擦り寄っている感じはなかなか実際その近辺に住んでいないと分かりづらいのではと。自分は関東あるあるにはそれなりに理解できているつもりですが、果たして関東以外の人がこれを見ても面白いのか…?
この結論を自分一人で出すのはなかなか難しいのですが、貴重な証言を一つ。関西在住の友人が、この『翔んで埼玉』を大阪で見たところ、結構笑いが起きていた、とのことでした!
考えてみれば、「地域格差カースト」というのは関東に限らず少なからずどこにでもあるのでしょう。例えば、関西一つにとっても「大阪」と「京都」と「奈良」では何らかのランクが存在しているかと思われます。自分の住んでいる地域でも、隣の市とどちらが上かという(どうでもいい)議論が昔から繰り広げていたことを思い出した…
つまるところ、この映画は「埼玉」という限定した地域の話ではなく、「地域カースト」というどこにでもある話がテーマになっていたから、見る地域を限定しない=大ヒットした。更にこの自虐ネタを分かる埼玉県では「大熱狂」と化した。…全く隙のないマーケティングじゃないか!!
予告編を見ただけじゃ全然分からなかったけど、実際見るとその意外な奥深さに感銘を受ける「浅そうに見えて深い」系映画でした。
…しかし、スタッフ、キャスト達が口を揃えて「こんなヒットするとは思わなかった」と発言している辺り、これらのことは偶然の産物だったり…?!
+++以下、ネタバレ注意!+++
【ネタバレあり感想、ツッコミ】
・二階堂ふみが演じた百美は、男の子っぽい女の子ではなく、正真正銘の男の子ってことで大丈夫ですよね…? つまり、GACKTが演じた麗に恋したということは、BL(ボーイズ・ラブ)ということ…??
意外なところで時代のニーズを捉えている『翔んで埼玉』。やはり侮れないな…
※男です
・ブラザートムや島崎遥香、麻生久美子(キャスティングの無駄遣いすぎる…)の現実パート、あんまり必要性を感じなかったなあ。ラジオを聴くだけであんなに口論になるの…? 現実パートなのに現実感なさすぎてすごい違和感でした。
・埼玉における池袋は大体あんな感じ。実質埼玉だよねあそこ。
・神奈川県知事役が竹中直人なのは、彼自身が横浜出身だからというネタ。しかし、神奈川の扱いはあれでいいのか…? ただの東京に屈服してる属国扱いじゃん。埼玉県民より神奈川県民の方が怒りそう…
◎誰の心にも「SAITAMA」は存在する
結局、この話のラストはラジオから流れているフィクションとしか思っていなかった話が実はリアルの話で、百美と麗は実際に存在していた。
思いっきりスターウォーズのラストシーンのパクリで地下に潜んでいるレジスタンスに向かって、全国埼玉宣言(?) (うる覚え、でもニュアンスとしてはこんな感じ)を宣言して終わってましたね。
たしかに、何もなさそうに見えて実はほどほどに何でもある埼玉は住みやすそうだし、全国区に見えて実は埼玉生まれ(ガリガリ君とか安楽亭とか)のものも結構存在するなぁと。
関東人が内心バカにしていた埼玉も、実は意外なところで恩恵を受けている… バカにしていたお前らも、みんな埼玉なんだよ!!というこの映画からの最後のメッセージ。喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないな、おい。
・連想した作品
バカバカしいテーマを至って真面目に作ってしまった映画と言ったらこれ。と思ったら監督も同じでした。
二階堂ふみさんといえばこの映画。めちゃくちゃな感じがやみつきになります。
音楽界にもSAITAMAの流れ確実に来てるな。。