シネフィルとは呼べなくて。

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『シュガー・ラッシュ:オンライン』 感想 ディズニーのインターネット侵略宣言

シュガー・ラッシュ:オンライン』

(原題:『Ralph Breaks the Internet』)

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60点 / 100点(満点中)

 ひとこと・・・ディズニー、攻めすぎ。

 

あらすじ:好奇心旺盛でワクワクすることが大好きな天才レーサーのヴァネロペと、ゲームの悪役だけど心優しいラルフ。大親友のふたりは、アーケード・ゲームの世界に暮らすキャラクター。
そんなふたりが、レースゲーム<シュガー・ラッシュ>の危機を救うため、インターネットの世界に飛び込んだ!そこは、何でもありで何でも叶う夢のような世界――。しかし、思いもよらない危険も潜んでいて、ふたりの冒険と友情は最大の危機に!? 
果たして<シュガー・ラッシュ>と彼らを待ち受ける驚くべき運命とは…。 (公式サイトより)

 

www.disney.co.jp

www.youtube.com

 

 

"ゲームセンターの中のキャラクターが実は意思を持っていたら…?"というトンデモ設定で世界中を驚かせた『シュガー・ラッシュ』の続編です。

トイ・ストーリー』のおもちゃ、『インサイド・ヘッド』の感情といい、ディズニーは何かに感情を宿すという行為が大好きなのですね。(しかもどれも傑作という)

他にも前作はゲームセンターのキャラ同士が交流している(特にゲーム機に電源を挿すコンセントのハブがそのままターミナルになっている発想には目から鱗でした)等、ゲーセンあるある、もといゲーセンこうあってほしい()という妄想が展開されており、ただそれだけで楽しいんですよね。メントスコーラ山のアイデアも、それはそれは楽しかったなあ。

 

が、何よりも魅力的だったのは、ラルフとヴァネロペの凸凹バディものだったりします。

片や建物のあらゆるものを壊す悪役(ドンキーコング)、片やレースゲーム「シュガーラッシュ」の人気おてんば姫。パッと見て何も繋がりがなさそうな二人が友情を育み、最終的には危機を乗り越え、二人の友情はより強く結ばれました。めでたしめでたし。

というもので、まさにディズニー印の教育上素晴らしい映画でした。

 

…しかし、今作の舞台は「インターネット」。

閉鎖的なゲームセンターとは全くの逆、何でもありな世界です。

続編はラルフとヴァネロペがインターネット世界に飛び出すと聞いた時、これは一筋縄ではいかなそうな予感がプンプンしましたが…

 

◎ここまでやるか、ディズニー。

インターネット。今や、私たちの生活に欠かすことができない存在ですが、同時にあまりに膨大な情報量のせいで取捨選択のスキルがもはや必須な、ある意味"カオス"な世界でもあります。ある意味、教育上よろしくない世界も広がっているわけです。

そんな世界をあの優等生だった映画の続編がどう描くのか、楽しみだったのですが…

思いの外そのまま描いてました。

ネットショッピングやオークション、SNS等の表現は勿論「実際に存在していたらこんな感じなんだろうな!楽しそう!」という気分にさせてくれますが、(ウザめの)ポップアップ広告や、「ネットの接続が切断されました」など、あまり嬉しくない感じの"あるある"もがっつり再現されていたのには笑わせてもらいました。天下のディズニーなのに…

それどころか、明らかに教育上良くないと断言できる「ダーク・ネット」(闇サイト的な?)も再現されていたのには、もはや凄みすら感じましたね。前作の楽しい感じだけじゃないんだぞと言わんばかりに。

ある意味、公開日の近かった『search / サーチ』の如く、インターネットを駆使する現代社会人なら誰しも理解できる"インターネットあるある"の描写だけで、例え前作が未見でも本作だけで結構満足できてしまうのかもしれません。

 

そして何より忘れてはいけないのは、「ディズニーによるセルフパロディ」。

ピクサースターウォーズ、MARVELとありとあらゆる自社コンテンツをパロってましたね。(パロディも何も本家本元なんだけど)

レディ・プレイヤー1』では会社が違うために、スターウォーズ等、ディズニー関係のモノをほんの少しでも出すだけで大変だったそうなのに…(スターウォーズ関連は現実での影響力を考えて敢えて出さなかった byスピルバーグ監督 らしいですが…

その中でも最たるものは、やはりディズニープリンセス達の集合でしょう。あの光景は、まさに何でもありなインターネットを舞台にした作品以外ではあり得なかったはずです。

因みに、メリダ(『メリダとおそろしの森』のプリンセス)だけ変わり者なのは、一人だけスタジオが違うから、というネタには笑わせていただきました(笑) (メリダだけ制作スタジオがピクサー、他は全てディズニーアニメーションスタジオ)

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ディズニープリンセス達が変顔で自撮り。我々は奇跡を目の当たりにしている)

 

◎ラルフとヴァネロペ、スター誕生?

前作の肝であったラルフとヴァネロペの関係は今作で大きく変化します。

オンラインで過激なレースゲーム「スローターレース」に出会ったヴァネロペは、自分のレースゲームである「シュガーラッシュ」を捨て、大きく惹かれた「スローターレース」に乗り換えようとします。

それは同時にゲームセンターとの別れ、ラルフとの別れを意味するもの…

しかし、彼女は今までの立場や経験を捨て、新しい領域へと挑戦する決意をします。

 

それに反してラルフの方はというと… 「あんなゲームは危ない!」(というのは建前、本当はヴァネロペと離れたくない)と言い放ち、「スローターレース」にあらゆる妨害を仕掛けます。

彼の方は、失うものの怖さに保身に走り、結果、ヴァネロペの足を引っ張り、そして自らの破滅を招くんですよね。

 

この構図、最近どこかで見たな…と思う人は多分一人だけじゃないでしょう。

そう、レディー・ガガ主演、ブラットリー・クーパー監督の話題作『アリー/スター誕生』と構図が全く同じなんですね。

wwws.warnerbros.co.jp

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(色々な意見あると思いますが、自分は大好きな映画です)

スターダムに駆け上がっていくアリー(レディー・ガガ)をよそに、運命の相手だったジャクソン(ブラットリー・クーパー)はアリーが自分の手に付けられないところに行ってしまうとばかりに保身に走り、アリーの足を引っ張ります。(グラミー賞のシーン、あれ本当にやったら炎上どころじゃないだろうな…

そして、終いには…

 

大人が見る映画ならともかく、子どもも勿論見にいく映画でこれをやるとは。

前作であんなに良好な関係を築いたのに…

ビターすぎやしませんかね、ディズニー。

 

 

ここまで書き連ねたように、明らかに1作目とは様相の異なる続編です。

前作が好きだからと言って、続編も好きになれるとは限らず、逆に、前作あまり好きじゃなくても、続編はひょっとしたら気に入るかもしれない。

そんな自分はどうだったかというと、今回のカオスな世界観は好きだけど、ビターな感じはあまり好みじゃないかな…という着地。

完全に大人向けの『アリー』(海外ではR指定作品です)ならともかく、『シュガー・ラッシュ』でこれをやられてもなあ。ラルフとヴァネロペは永遠の親友であって欲しいし、ラルフはヴァネロペにとっての「私のヒーロー」であり続けて欲しいと思うのは、自分が幼稚だからでしょうか…

 

また、本作はとにかく「ディズニーのインターネットに対する本気度」が伝わってきた作品でもあります。

インターネットの世界の中では先進的とは言い切れないディズニー。(ディズニー映画の公式サイトも、他の会社と比べたら明らかに情報少ないですし…)

 

「Disney+」という名の配信サービスを開始するというニュースがこの間あったように、これからそっちの世界に本格的に参戦するんで!よろしく!というメッセージを本作に乗っけた、という考え方も0%ではないのかな、と。

 

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+++以下、ネタバレ注意!+++

【ネタバレあり感想、ツッコミ】

・ラルフ、ネットの世界に行くはいいんだけど、本業は?

→見ていて一番モヤモヤしていた点。ゲームが壊れて電源が抜かれてしまったヴァネロペはいいとしても、絶賛稼動中の「フィット・イット・フェリックス」はほったらかしにしていいの?というか前作はラルフがゲームをほったらかしにして大問題にならなかった???

フェリックスJr.(マリオ)から何らかのフォローetcを見逃しただけならいいのだけれども。

 

・ヴァネロペのゲームを乗り換える行為は、「ターボする」と同じじゃないの?

→ヴァネロペは「シュガーラッシュ」から別のゲームである「スローターレース」に乗り換えるのですが… この行為、前作で問題視されていませんでしたっけ??

ゲームセンター内では、別のゲームに乗り換えることを「ターボする」という単語で忌み嫌っており、そもそも前作のボスはシュガーラッシュの世界を「ターボする」ことで牛耳っていたキャンディ大王(=ターボ)だったような…?

オンラインへの乗り換えなら問題ないの?ターボみたいに悪意がなければいいの?それとも「ターボする」はあのゲームセンターだけのローカルルールだったの?

 

それにしても、ハンドルは直ったからいいものの、ゲーム1の人気キャラが抜けてしまったシュガーラッシュ、果たしてこれからどうなってしまうのか。

 

・ラルフ、ガチの悪役かよ…

→「フィット・イット・フェリックス」内ではあくまで「悪役キャラクター」として仕事をしていたラルフ。それが、今回は(あくまでコピーですが)ガチでインターネットを危機に陥らせるという絶対的な悪になっていたのには仰天。しかもラルフがコピーが無数に集結した「キング・コング」として。(これ、子ども泣くんじゃないの)

ラルフはこんな奴じゃないんだ。ただヴァネロペと離れたくなかっただけなのに…

と思ってたら、今作の原題は『Ralph Breaks the Internet』(=ラルフがインターネットをぶっ壊す)でしたね。タイトルで壮大にネタバレしてました。

 

それにしても、「スローターレース」を崩壊させ、邪悪なラルフコピーを作り上げた今回の諸悪の根源であるウイルス、特に破壊されなかった描写がなかったので、野放しにされてるってことでいいんですかね。その事実が何よりも怖いよ…

 

 

最終的には、ラルフとヴァネロペは離れ離れになってしまいますが、Skypeのようなツールで繋がっています。やけに現代的だなあ。

これもディズニーのインターネット侵略宣言として捉えてもいいのでしょうかね…

 

 

・前作

シュガー・ラッシュ (字幕版)

シュガー・ラッシュ (字幕版)

  • リッチ・ムーア
  • キッズ/ファミリー
  • ¥2000

 このシリーズは吹替しか見たことないので、字幕でも見てみたい

 

・連想した作品

 全て本作と同じ2018年公開作品。

『search/サーチ』は予習なしの方が絶対楽しめます