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『十二人の死にたい子どもたち』感想 生きるも大変、死ぬも大変

『十二人の死にたい子どもたち』

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70点 / 100点(満点中)

ひとこと・・・みんな、早く集合し過ぎでは。

あらすじ:その日、12人の未成年たちが、安楽死を求め廃病院の密室に集まった。「みんなで死ねば、怖くないから」ところが、彼らはそこで13人目のまだ生あたたかい死体に遭遇。突然の出来事にはばまれる彼らの安楽死。あちこちに残る不自然な犯行の痕跡、次々起こる奇妙な出来事。彼らだけしか知らない計画のはず。まさかこの12人の中に殺人鬼が……?死体の謎と犯人をめぐり、疑心暗鬼の中ウソとダマしあいが交錯し、12人の死にたい理由が生々しくえぐられいく。全員、ヤバい。気が抜けない。いつ誰が殺人鬼と変身するのか!?パニックは最高潮に。彼らは安心して“死ねるのか”怯えながら“殺されるのか”  (TOHOシネマズ作品紹介ページより)

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◎ワンシチュエーション&若手ホープ俳優たちの演技合戦

廃病院に自殺志願者12人が集う。本当にそれだけ。病院以外から一歩も出ることなく、12人(+1人)以外の出演者も誰も出てこない。(回想シーン以外)

とんでもなくシンプルなのに、スクリーンに釘付けになっている自分がいました。それはひとえに役者の演技力と監督の演出力のおかげでしょう。

12人という決して少なくない人数なのに、物語が始まってすぐ大体全員のキャラとポジションが見えてくるのがまず凄い。どのキャラも本当に良かったのですが、個人的には2番のケンイチ(渕野右登)がお気に入りだったかなあ。あんな空気の読めない演技上手い人初めて見た(笑)

また、監督は多種多様な作品を手がけている堤幸彦監督。某超能力者バトル作品の結末のあまりのお粗末さにしばらく距離を置いていたのですが、前作『人魚の眠る家』に続きとても惹き込まれる作品でした。アプローチは違えど、「人が死ぬこと」をテーマに置いた作品という意味では2作連続ですね。また、個人的に唯一無二の不思議な映画体験だった『イニエーション・ラブ』から引用したのではと思うほど似たような演出もありました。出演者の一部を伏せていたというのも共通点かも。(今回は直前に公開してましたが

今作で一つ気になった演出は、役者の正面のカットがやけに多かったことですね。シネマスコープの横長の画面で真ん中に役者の正面顔。ポスターでもそうですが、マグショットを意識してるのかなあ。12人全員が何かしらの罪を背負っているという比喩なのでしょうか…

そういえば、映画を見始めてまず思ったのは「舞台映えしそうだなあ」ということ。ワンシチュエーションだし、役者も少なくて済むし。既に舞台化されてると思い調べましたが、まだされていないみたいですね。近い将来どこかやりそうな予感…

 

 同じ堤監督作品。これが好きなら今作も気に入るかと。 しかしジャンルは「ロマンス」なのか…?

 

◎"タダ"じゃ死ねない

 本作では、"死にたい"若者が12人集結するのですが、個人的に面白いと感じたのが死にたい理由が全員異なること、そして、"殺されるかもしれない"という状況に変わると急に"死ねない"という者が出てくることでした。

死にたいと思わせることに至らせる原因がここまで多種多様なのかと考えさせるし、中には「え、そんな理由で死にたいの?」という人もいました。でもそれが逆にリアルだったりもする。実際、自殺をする人の中には他人からするとどうしようもなく些細な理由だったりするのもいるかと存じます。死にたい感情というのは相対的なものではなく、自分だけの絶対的なものなのだから…

また、死にたくて来たのに、タダじゃ死ねないと急に様変わりするのも興味深かったですね。観客の目には「お前たち死ぬ為に集まったんじゃないのかよ!」と滑稽に映ります。案外、それがこの映画の不謹慎的な面白さに繋がっているのではと。。

""というものはどうしようもなく不謹慎ではあるけれど、どうしようもなく魅了されてしまうのも悲しい人間の性というものです。

 しかし、言うまでもなく生きるのが大変な昨今の世の中、死ぬも大変というのは何たる皮肉としか言いようがありませんね…

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+++以下、ネタバレ注意!+++

【ネタバレあり感想、ツッコミ】 

◎早く集合し過ぎだよ

映画を見てまず最初にツッコみたくなった点。「みんな早く集合し過ぎ!!

主催者である1番のサトシが来た集合1時間前の11時の時点で、少なくとも7番のアンリ、9番のノブオ、12番のユキ(と0番)、4番のリョウコの5名が既に来ていたということになります。まともな時間に来たのは実は到着が最後だった6番のメイコぐらいなのでは…?

管理が厳しいせいで早い時間に来ざるを得なかった4番のリョウコと、もう一人内密に運ぶ必要があった12番のユキの2名は理解できますが、その他は不自然なぐらい早いよ…

というか、1番のサトシは1時間も巡回していたのに、不審点もナンバリングされた札と実際に来た順番のカラクリを見抜けなかったのが何とも。。

喫煙者が3人いたことに驚いたアンリより、集合2時間前から来ていた人が3人以上いたことに驚きだよ…(アンリはタバコの火の不始末による火事で弟を失っているので、喫煙者を異常に責めていたというのは良かったですね)

 

そういえば、エンドロールで時系列順にご丁寧に時刻付きで整理整頓した演出も好印象でした。イニシエーション・ラブ』も全く同じ手法でしたが。悔しいけど、もう一回見たくなるという戦略に乗せられます。。

◎ある意味、自殺防止映画?

結局、自殺希望者の集いは、全会一致の中止という決議で終わり、死んだと思っていた0番を含め、誰も死者を出さずに話は終わりました。(死んだと思っていた0番は植物人間だったというオチ)

十二人の死にたい子どもたち』という扇情的なタイトルの割には限りなくハッピーエンドに近いラストで、ここは賛否が分かれるところだとは思いますが、個人的にはこの結末で良かったと思います。

自殺したい程に悩んでいた12人が自分の悩みや本心を打ち明け、「その悩みは他人から見たら大したものじゃない」「同じ境遇の人と会話することで死にたい気持ちより生きる希望が芽生えた」という本作のまさかのポジティブなメッセージには驚くばかりでした…

つまるところ、死ぬも生きるも実は表裏一体で、「死にたい」という感情も「生きたい」という感情に本質的には変わらないんだということを教えてくれた気がします。「0番が生きていると分かった時、生きて欲しいと直感的に思った」という5番のシンジロウのセリフが印象的。つまり人間は本能的にも生を求めているのだと。

惜しむべきは、もっと自殺防止映画の側面を前面に出したほうが良かったのでは?と思うこと。自殺希望者が今作を見たら、自殺をやめるまでとは行かずとも、何かを考えるきっかけぐらいにはなるのでは?と思うのです。「自殺はいけない」という直接的なメッセージよりも、この手の方がよっぽど自殺防止の効果があるんじゃないかな…

調べたら既にタイアップキャンペーンやってました。でもこのポスター見ただけで自殺やめようと思う人いないだろうな…(笑)

 

 

◎実は一番死に魅せられていたのは

ハッピーエンドに思われたラストでしたが、12人全員が「生きたい」と改心したわけではなく…

7番のアンリだけは、この集いを中止させた理由が「生きたい」ではなく「目的が達成されない」からというものでした。未成年の若者が一斉に自殺することで世の中に対抗するというメッセージが送れなくなってしまうから。

そして1番のサトシは、既にこの集会を3回ほど主催しており、全て誰も一人も死者を出さずに中止という結論で終わっていたというが判明。実は自分が自殺したいが為の集会ではなく、実質、自殺抑止の目的の集会であったと。本当は最初から死ぬつもりはなかったと。しかし、中止ではなく本当に決行されていたら、という問いには「その時は自分も一緒に死ぬまでだった」という。。

父親の病院のくだりはおそらく嘘ではないと思うし、サトシが何回も自殺希望者の集いを開くのは、本当の死に場所を探しているだけではないのでしょうか。。

12人の中で一番死に魅せられているのは、実は死にたい意識が低かった1番のサトシだった、というオチ。嫌いじゃないです。

 

 

 

・連想した作品

七人の侍

七人の侍

 偉大なる"タイトルに人数が入っている"系映画の元祖。

 

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面識のない12人がとある部屋に集まり疑心暗鬼に陥る、という色々共通点の多い映画。ただしこちらはびっくりする程つまらないです。(悪評が立っているからかどのサイトも配信サービスしていないのがまた…笑)

 

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こちらも面識のない人同士が一室で議論する映画。ただしこちらは文句なしに面白いです。